私たちは、生きていくため呼吸によって大気中の酸素を体内に取り込み、細胞活動に必要なエネルギー(ATP)をミトコンドリアという細胞小器官でつくり出しています。
この時、体内に取り込まれた一部の酸素は、多くの物質と反応する「活性酸素種(Reactive Oxygen Species:ROS)」となります。
活性酸素が持つ強い酸化力は、白血球が体内に侵入したウィルスや細菌、がん細胞などを攻撃することに使用され、免疫機能の一部を担い、私たちの生命維持には欠かせない役割があります。
生理的因子 | |
呼吸、白血球などによる異物や細菌の処理、薬物の代謝処理 | |
病 的 因 子 | |
虚血再還流、過度の運動、精神的・肉体的ストレス、感染、炎症 | |
外 的 因 子 | |
喫煙、紫外線、放射線、大気汚染、重金属 |
本来、私たちの体内には恒常性を維持するため、不要になった活性酸素種や過酸化脂質を無害化する消去メカニズムとしての『抗酸化防御機構』が下図のように兼ね備えられています。しかし、発生した活性酸素種や過酸化脂質が『抗酸化防御機構』の消去能力を上回ることで、活性酸素種が蛋白質や脂質、糖質、核酸などの生体成分を酸化修飾し、生理機能の低下、疾病の発症や進行、老化の亢進などを引き起こすことになるのです。
過剰発生した活性酸素は、その有害性が指摘されており、代表的な活性酸素種としては、以下の4種類があります。
ヒトの体内でもっとも大量に発生。他に比べ反応性が低く、身体に与える影響は少ない。ただし、電子や水素原子とのやりとりが進むことで、ヒドロキシラジカルなど毒性の強い活性酸素に変化する可能性が高い。
フリーラジカルではないため酸化力は小さい。しかし、わずかなきっかけで2つに別れ、酸化力が強いヒドロキシラジカルになることが問題。
活性酸素の中で最も反応性が強く、酸化力も強い。脂質、糖質、タンパク質など近くにあるあらゆる化合物と反応し、体内への影響力が最も強い活性酸素。ただし、反応性が強いため、特に体内に影響を及ぼさない化合物と反応し、無害な物質となって排出されることも多い。スーパーオキシドアニオン、過酸化水素から発生し、体内で酸素から直接生成されることはない。
電子そのものはすべてペアになっているが、酸化力が強い。体内でつくられる酵素では無害化できない。
抗酸化物質は、活性酸素種の発生を抑制し、多くの疾患の発症の要因のひとつとなる酸化ストレスを制御する物質です。生体内で作られる抗酸化酵素類と体外から摂取すべき水溶性や脂溶性の抗酸化物質があり、活性酸素種の種類によって、それぞれ特異的な抗酸化物質が必要です。
スーパーオキシドを中和する
SODで中和された過酸化水素を水と酸素にして消去
※抗酸化酵素の活性や安定には蛋白質や金属が必要
細胞質基質と血漿中の酸化物質と反応。体内合成ができないので、毎日の食事などから補給し続ける必要あり。
グルタチオンを再生する
細胞内外の抗酸化を行う
ホモシステインの血中濃度を減少させて抗酸化作用を発揮
ヒドロキシルラジカル、一重項酸素などの活性酸素種に電子を与え、無毒化
細胞膜の脂質過酸化反応を防止。体内合成はできないので、毎日の食事などから補給し続ける必要あり。
プロビタミンA(カロテノイドの一種)活性があり、一重項酸素の消去を担う
生体膜の酸化的傷害の予防を担います。
尚、ビタミンE は過酸化脂質の消去の際、ビタミンE 自体がラジカル化するので単独ではなく、ビタミンC やアミノ酸のSH 基、GSH-Px が共役してビタミンE を再生する必要があります。
細胞膜などの脂質中の一重項酸素消去に有効になります。
脂溶性の抗酸化物質として細胞膜やミトコンドリア膜の脂質ラジカルを消去します。
多くの疾患の発症の要因となる活性酸素種や過酸化脂質の抑制や消去に必要な抗酸化物質ですが、効果を期待してサプリメントなどで単純に大量・長期投与すれば良いということにはなりません。【プロオキシダント作用】といって抗酸化物質自体がラジカルとなり逆に酸化を促進してしまうことがあります。
酸化作用を持つアスコルビン酸(ビタミンC)やビタミンEなどのビタミン、ポリフェノール性抗酸化物質(ケルセチン、クルクミン、レズベラトロール、カテキンなど)には、この作用があることが知られています。
一方、抗酸化物質の中でもカロテノイドのキサントフィル類は高酸素分圧下でもプロオキシダント作用が低く、抗酸化活性が発揮でき、特にアスタキサンチンについてはプロオキシダントにならない純粋な抗酸化物質として注目が集まっています。